家庭教師の仕事に関わっていると、ときどき「不登校の家庭は狙い目だ」というような考え方に出会うことがあります。
僕は、この言葉がずっと嫌いでした。
もちろん、不登校の子どもに家庭教師という選択肢が合うことはあります。集団の中では難しくても、一対一なら安心して話せる子もいるし、学校とは別の場所に信頼できる大人がいることに救われる子もいる。
だからこそ、必要としている家庭にサービスを届けること自体が悪いとは思っていません。
ただ、「困っているから売りやすい」という発想に変わった瞬間、話はまったく別だと思っています。
不登校そのものが、本当の問題とは限らない
僕は、不登校という状態そのものを「解決すべき問題」として単純に捉えることには違和感があります。
特に思春期は、自分自身でもまだ名前をつけられない感情や、人間関係、将来への不安、家庭のこと、学校で起きたことなど、たくさんの情報が一気に入ってくる時期です。
それらを自分の中でうまく整理しきれない。
その結果として、学校に行けなくなることがある。
だとすれば、「学校に行けない」という現象だけを取り除こうとしても、本質的な解決にはならないことがあります。
子どもの頭を借りて「演算」を助ける
必要なのは、その子の頭の中にあるものを一緒に整理することだと僕は思っています。
ただ否定せずに話を聞けばいい、というだけでもない。
とにかく褒めて自己肯定感を上げればいい、という単純な話でもない。
「何が嫌だったのか」
「なぜそう感じたのか」
「本当はどうしたかったのか」
「今、何ならできそうなのか」
一つひとつ一緒に考えて、本人が自分の感情や状況を少しずつ理解できる状態にしていく。
僕の中では、子ども一人では処理しきれない“演算”を、大人の経験や頭を一時的に貸して、一緒に処理していくようなイメージです。
例えば、「学校が嫌だ」という言葉の裏にあるものを、「先生が怖いのか」「勉強が分からないのが恥ずかしいのか」「朝起きられない自分が情けないのか」と、一つひとつ因数分解していく。
そうして絡まった糸を解いていくと、子どもは「あぁ、僕はこれが嫌だったんだ」と自分の現在地を理解し、少しずつ前を向き始めます。
そして不思議なことに、本気で向き合って話をすると、子どもたちは思っている以上に応えてくれます。僕自身、それを何度も見てきました。
子どもだから分からないのではなく、まだ整理するための材料や経験が足りないだけなのだと思います。
一番不安なときほど、高額な商品は売れてしまう
一方で、家庭教師や教育の業界には、別の現実もあります。
子どもが学校に行けなくなったとき、親御さんは本当に不安です。
「このままで大丈夫なのか」
「高校に行けるのか」
「将来どうなるのか」
「自分の育て方が悪かったのか」
答えのない問いを毎日抱えることになります。
そして、人は不安が大きいときほど、「これをやれば大丈夫です」と言い切ってくれるものにすがりたくなる。
僕はこれまで、埃を被った数十万円もする大量の教材を購入していた家庭や、強い不安を抱えた状態で非常に高額な契約をしていた家庭を何度も見てきました。
親御さんの必死な思いが、そのまま部屋の隅で眠っている光景は、何度見ても胸が痛みます。
もちろん、すべての教材や高額なサービスが悪いわけではありません。本当に必要なもので、金額にも納得したうえで利用しているのであれば、それは一つの選択肢です。
ただ、親御さんの不安を必要以上に刺激し、「今契約しなければ手遅れになる」と感じさせるような売り方には、僕は強い違和感があります。
困っている人ほど売りやすい。
知識がない人ほど高いものを売りやすい。
もし教育に関わる人間がそんな発想になってしまったら、それはあまりに寂しいことだと思うのです。
僕たちの仕事は、不安を大きくすることではない
教育の仕事は、家庭の不安を利用する仕事ではないはずです。
むしろ、その不安を少し一緒に背負う仕事だと思っています。
親御さんが見えなくなっている選択肢を整理する。
子どもが言葉にできない気持ちを一緒に考える。
必要であれば勉強を教える。
必要でなければ、無理に何かを売らない。
それくらいでいいのではないかと思います。
家庭教師も、塾も、教育サービスも、当然ながら事業なので利益は必要です。働く人にも生活があります。だから「利益を出すことが悪い」と言いたいわけではありません。
ただ、利益を出すことと、人の弱っている部分につけ込むことは、まったく違います。
特に教育は、子どもの人生や家族の不安に深く触れる仕事です。
だからこそ、そこで働く一人ひとりが、ときどき立ち止まって考える必要があると思っています。
「自分は何のためにこの仕事をしているのか」
「この提案は、本当に目の前の家庭のためになっているのか」
「不登校は狙い目」ではなく、「不登校の子やその家族に、今どんな助けが必要なのか」。
僕は、教育に関わる人間が考えるべきなのは、こちらであってほしいと思っています。
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